ここまで、日本の医療が直面している課題を、制度・構造・役割の観点から整理してきました。その多くに共通する根本的な問題の一つとして、医療資源の実態(何がどこにどれだけあり、どう使われているか)が、関係者の間で“共有されにくい/見えにくい”ことがあるのではないか、と感じています。OECDの経済審査(Japan 2024)でも、統合されたデジタル医療記録の不足が効率性を阻害する可能性が指摘されており、情報の可視化・共有は重要な論点だと思います(OECD Economic Surveys: Japan 2024)。
医療の再設計に必要なのは、強い理念やスローガンではありません。
まず必要なのは、「今、何がどこに、どれだけあり、どう使われているのか」を正確に把握することです。
医療資源は「ある」のか、「使えている」のか
日本には、医師、看護師、病床、医療機器といった医療資源が、一定量存在しています。
統計上は「医師数は増えている」「病床も多い」と報告されています。
しかし、現場で問題になるのは、それらが実際に機能しているかどうかです。
・どの病床が、どの機能を担っているのか
・どの時間帯に、どの専門職が配置されているのか
・どの医療が、どの地域で不足しているのか
こうした情報は、断片的には存在していても、全体像として共有されているとは言えません。
見えないままでは、調整は始まらない
医療資源の再配置や機能分化は、誰かにとって必ず「不利益」に見えます。
だからこそ、感情論や印象論ではなく、勇気を持った事実認識が不可欠だと考えます。
・本当に過剰な病床はどこか
・本当に不足している機能は何か
・この地域で、何を守るべきか
これらの問いに答えるには、見える化されたデータが必要です。
見えないままでは、議論は「守る/削る」という対立に陥り、前に進みません。
「見える化」は改革ではなく、対話のスタートである
医療資源の見える化というと、「改革のための武器」「削減の根拠」と受け取られることがあります。
しかし本来の目的は、その逆です。
見える化とは、関係者が同じ地図を見るための準備です。
医療者、行政、住民が、それぞれ異なる立場からでも、同じ現実を共有できるようにする。そのための土台に過ぎません。
厚生労働省が進めてきた地域医療構想や医療計画におけるデータ公開は、その第一歩と言えます。また、OECDの国際比較データは、日本の医療を相対化する視点を与えてくれます。
重要なのは、データを「評価」ではなく「対話」に使うことです。
再生の出発点としての見える化
医療の再生は、壮大な改革案から始まるものではありません。
まず、現実を正確に知り、共有し、言葉にすることから始まります。
どこで無理が生じているのか。
どこなら、まだ選択肢が残されているのか。
それを見極めるための第一歩が、医療資源の見える化です。
このシリーズでは、「日本の医療・医療制度」という大きなテーマを、できるだけ分解し、構造として整理してきました。
次の段階では、これらを踏まえて、地域や病院単位で何ができるのかを具体的に考えていくことになります。
医療を「終わらせない」ために。
そのための議論は、ようやくスタートラインに立ったばかりです。
