最適解を考えるには

公立病院の経営再建に関わる中で、私は医療経営を学び始めました。同時に、自分の考えを整理し、共有できる形にしておきたいと思い、このブログを書き始めました。

第1章では、日本の医療がかつて「優れていた」と言われてきた背景を、医療制度の側面から眺め直してきました。フリーアクセス、比較的低い自己負担、全国に張り巡らされた医療提供体制。こうした特徴は、一定の前提条件のもとで築かれた制度設計の成果だったのだろう、と改めて感じます。

一方で、その前提条件は少しずつ変化しているように見えます。人口構造、医療需要、医療人材の価値観、財政制約、地域間格差などが変われば、かつての「最適解」が将来も最適であり続けるとは限りません。医療を持続させるためには、制度も現実に合わせて見直していく必要があるのではないでしょうか。問題は「変えるかどうか」ではなく、「どの方向へ、どの速度で、どのように変えていくか」なのだと考えます。

最適解を考えることが難しいのは、立場によって見える景色が違うからです。

患者の立場からは「家の近くに、いつでも診てくれる医療」が望ましいでしょう。

医師やスタッフの側には使命感がある一方で、キャリア形成、家族の希望(教育や居住環境)、職場環境、ワークライフバランスといった現実もあります。

病院経営者は地域貢献の理念を抱えつつ、収益や資金繰り、人材確保という制約の中で判断せざるを得ません。

自治体や地域医療の視点に立つと、「地域全体の医療」を統括して設計し、説明し、合意形成を進める責任主体が曖昧になりやすいようにも思われます。

国のレベルでも、関係者や組織が異なれば、目指す医療像が一致しない場面は少なくないはずです。

まずは、こうした“見え方の違い”そのものを共有しないと、議論が噛み合わなくなってしまうのかもしれません。

さらに、時間軸の視点も欠かせません。

制度はAからBへ突然切り替わるというより、A’→A’’→…→Bのように、段階的に移行していくはずです。

Bは固定の到達点ではありません。AIを含む医療技術の進展、移民の増減、日本経済、国際情勢など、前提条件は今後も変化するはずです。Bは「確定解」ではなく「現時点の仮説」として持ち、変化が起きた時点で軌道修正していく。分からないことが多いからこそ、考えることをやめず、必要に応じて更新していく姿勢が大切なのだろうと思います。

この作業の要点は、少なくとも二つありそうです。

第一に、立場によって最適解が異なることを前提に、矛盾をできるだけ小さくする制度設計や病院運営を考えること。

第二に、意思決定に関わる人(自治体の首長、病院管理者など)が医療制度や病院経営を学び、説明できる状態に近づくことです。

私自身も、学び始めて初めて見えてきた論点が少なくありませんでした。

次章では、こうした前提を踏まえたうえで、「地域医療を誰がどう設計し、病院はどの機能を担うべきか」という論点を、もう少し具体的に考えてみたいと思います。