16.黒字でも苦しい/赤字でも回る ―そのメカニズム(会計とキャッシュのズレ)―

病院経営の話をしていると、ときどき直感に反する現象に出会います。損益計算書では黒字なのに資金繰りが苦しい。逆に赤字が続いているのに、当面は回ってしまう。こうした「黒字=安心」「赤字=危機」という単純な図式が成り立たないのは、会計(損益)とキャッシュ(お金の出入り)が同じではないからだと説明されています。

診療報酬の入金には時間差があります。診療月のレセプトは審査支払機関を経て支払われ、実際の支払予定日は月ごとに公表されています。診療してすぐ現金が入るわけではありません。つまり、黒字であっても、手元資金が薄い状態で人件費や材料費の支払いが先に来ると、資金繰りが苦しくなります。

次に大きいのが「減価償却」と「借入金返済」です。減価償却費は、設備投資の支出を耐用年数にわたって費用配分する会計上の処理で、医療法人会計基準でも減価償却を通じた費用配分の考え方が示されています。一方、借入金の返済は“現金の支出”ですが、損益計算書の費用にはそのまま載りません。ここがズレの核心でしょう。厚労省資料でも「黒字だが資金が不足している」典型として、税引後利益+減価償却費(返済原資)より借入金返済が大きいと資金繰りがマイナスになり得る、と具体例で説明されています。

さらに、設備投資そのものも要注意です。CTや手術機器、情報システム更新などの投資は、購入時に現金が出ていきますが、費用化は減価償却で分割されます。つまり、投資が重なる局面では、損益がそこまで悪く見えなくても、キャッシュは急に痩せます。加えて、医療材料費やエネルギーコスト、委託費などは日々の現金支出として効き、資金繰りを直撃します。

病院経営を「黒字か赤字か」だけで判断すると、現場の危機感と数字が噛み合わなくなることがあります。最低限「損益(PL)」と「手元資金・返済・投資(キャッシュフロー)」を分けて見る習慣が必要だと思います。黒字でも、返済と投資でキャッシュが抜ければ苦しくなる。赤字でも、補助金や一時的な資金流入、投資抑制で当面回ってしまうことがある。その“仕組み”を理解しておくと、次に打つ手(返済計画、投資の順番、運転資金の厚み、人件費と材料費の管理)が、もう少し現実的に見えてくるのではないでしょうか。

次回は、では臨床医として「どこまで診療報酬を理解すべきか」。全部ではなく、現場の判断に効く“最小セット”を整理してみます。