「医師も診療報酬を勉強すべきだ」
これは正しいと思います。ただ現実には、点数表は膨大で改定も頻繁です。すべてを追いかけるのは、よほど制度に関心の高い人でも難しい。だからこそ私は、「全部を理解する」ではなく、臨床の判断と病院運営に効く“最小セット”を押さえるのが現実的だと考えています。
最初に押さえるべきなのは、診療報酬が何かという定義です。厚生労働省の資料によれば、診療報酬は保険診療における医療サービスの価格であり、原則として医療行為ごとに点数が定められ、1点10円で計算される(出来高払い)と説明されています。この「価格表」である、という理解が出発点になります。価値や原価の完全な写しではなく、制度としての価格である。ここを取り違えると、点数が低い=重要でない、という誤解につながりやすいからです。
次に必要なのが、「支払いの型」を知ることです。外来・検査・処置などは出来高が基本ですが、入院、とくに急性期入院ではDPC/PDPSという1日当たり包括の枠組みが広く使われています。厚労省の資料では、DPC/PDPSは急性期入院医療を対象とする診断群分類に基づく1日当たり包括払い制度と整理されています。 しかもDPCは「全部が包括」ではなく、包括部分と出来高部分の併用です。この“境界”を知らずに臨床をすると、病院の収益に大きな差が出てきてしまいます。一生懸命医療を提供すればするほど,病院の収益が減ってしまうと言うことも起こりえます。もちろん,儲ければ良いという話ではありません。
三つ目は、「施設基準・算定要件」の考え方です。臨床の現場でしばしば起こる混乱は、「医療の質や安全のためのルール」と、「算定のためのルール」が明確に区別されていないからかもしれません。例えば、チーム医療、救急の受入れ、感染対策、医療安全、地域連携など、日常業務の多くが“体制”として評価されていますが、同じ医療行為を行っても要件を満たさなければ算定されません。ここを理解していないと、「やっているのに算定できない」「算定のための書類が増える」という不満だけが残り、制度の意図と現場の実装がすれ違います。
四つ目は、「お金の流れの時間差」です。診療報酬は診療してすぐ入金されるわけではなく、レセプト→審査→支払いというプロセスがあります。支払基金は支払予定日を公表しており、制度として支払いまでのタイムラグがあることがわかります。この時間差を意識すると、例えば急な材料費高騰や人件費増が「すぐに資金繰りに響く」理由が理解しやすくなります。
臨床医が診療報酬を学ぶ目的は、「点数を取るため」だけではないと思います。私はむしろ、
①制度が今どこに重点を置いているかを読み、
②病院として何を守るべきか(人材・機能・体制)を考え、
③現場の改善を“制度の言葉”で説明できるようにする、という点に価値があると考えています。
全部を暗記する必要はありません。ただ、価格表としての性格、支払いの型(出来高とDPC)、施設基準・要件、そして入金の時間差。この最小セットを押さえるだけで、制度に振り回される感覚はかなり減るのではないでしょうか。
