19.薬価と医療費コントロール ―診療報酬と「もう一つのレバー」―

診療報酬の議論をしていると、つい「点数表=医療費のすべて」のように感じてしまいます。けれど実際には、医療費を動かす“もう一つの大きなレバー”があります。薬価です。外来でも入院でも、薬剤費は医療費の中で占める割合が大きく、薬価の改定やルール変更は、医療現場の実感以上に全体の支出に効いてきます。

厚生労働省の資料によれば、薬価改定とは、薬価調査(市場実勢価格の調査)の結果に基づいて、薬価に係る厚生労働大臣告示(薬価基準)を見直すことだと整理されています。 つまり「薬の値段そのものを定期的に見直す仕組み」が制度として組み込まれています。診療報酬が“医療行為の価格表”だとすれば、薬価は“薬の価格表”であり、同じ保険制度の中で別のルールで動いています。

薬価の世界が専門的に見えるのは、価格が「市場で自然に決まる」のではなく、制度として算定ルールが細かく定められているからでしょう。厚労省の「現行の薬価基準制度(概要)」を見ると、新薬収載時の基本的な算定(類似薬効比較方式など)、各種の加算(先駆加算、特定用途加算など)、不服申立の手続き、そして中医協での了承を経て収載されるプロセスが整理されています。 “イノベーションを評価したい”という方向性と、“医療費を抑制したい”という方向性が、同じ算定ルールの中に同居しているのが薬価制度の特徴だと思います。

一方で、改定(既収載品の価格見直し)は、さらに「コントロールのレバー」として働きます。令和7年度薬価基準改定の概要では、薬価調査の結果(乖離率)を踏まえて対象範囲を設定し、市場実勢価格加重平均値調整幅方式で改定したこと、さらに後発品の価格帯、基礎的医薬品、不採算品再算定、最低薬価、新薬創出・適応外薬解消等促進加算(いわゆる新創加算関連)など、品目の性格に応じたルールを適用したことが示されています。 ここは臨床医としても重要で、「薬価は一律に切られる」のではなく、安定供給や開発促進といった政策目標を残しながら、価格調整を設計しているということが読み取れます。

そして薬価は、中医協の薬価専門部会という“議論の場”を持っています。議事録や資料が公開されており、令和8年度の薬価改定に向けた議論が議題として扱われていることも確認できます。 診療報酬と同じく、薬価も「決め方」を追える仕組みがある、という点は押さえておきたいところです。

さらに近年は、「費用対効果評価」も、薬価調整の一部として位置づけられています。令和6年度改定の資料では、対象(市場規模が大きい、単価が高い等)や、一定の例外(希少疾患や小児のみ等)など、制度の枠組みが示されています。

診療報酬改定は「自分たちの仕事の値段が変わる」出来事です。一方、薬価改定は「薬の値段が変わる」ので、個々の医療行為の点数が同じでも、病院や地域の医療費の総額、薬剤部・薬局の運用、安定供給の課題などに影響してきます。医療費のレバーは複数あり、その中で薬価はかなり強い。そう理解しておくと、医療財政の議論も、もう少し立体的に見えてくるのではないでしょうか。