日本の医療を考える

日本の医療を考える

Dr. Kubota’s Blog (1)
はじめに:医療を「続ける」ためにあらためて考えること

日本の医療は、長い間「世界でも類を見ないほど優れた医療」と評価されてきました。平均寿命や健康寿命,予防可能・治療可能死亡など国際医療指標で上位に位置づけられています(OECD『Health at a Glance 2023: Japan Country Note』)。国民皆保険制度により、誰もが比較的低い自己負担で医療を受けることができ、医療の質も高い。これはまぎれもなく、日本社会が築いてきた誇るべき成果といえると考えます。一方で、医療の現場に身を置く私たちは、「このままでは続かないのではないか」という感覚を、日々強くしています。

しかし同時に、その医療を支えてきた前提条件が大きく変わりつつあります。人口減少、少子高齢化、人手不足、経済の停滞――。これらは一時的な問題ではなく、今後長期にわたって続く構造的な変化です。こうした状況の中で、これまでと同じ発想、同じ規模、同じ体制のまま医療を続けることは、もはや難しくなっています。

特に人口減少が進む地域では、医療の「維持」だけでなく、医療をどのように縮小していくかという視点が避けて通れません。病院の統廃合、病床機能の転換、診療科の再編といった議論は、理論の世界ではなく、すでに現実の課題として目の前にあります。何の準備もないまま病院が立ち行かなくなり、突然廃業してしまうことは、地域住民にとっても、医療従事者にとっても、最も避けるべき事態です。

だからこそ必要なのは、長期的な視点に立った計画的な「撤退戦」です。撤退とは敗北ではありません。むしろ、地域医療を守り続けるための、責任ある選択ではないでしょうか。そのためには、短期的な収支だけでなく、10年後、20年後の人口構成や医療需要を見据えた判断が求められます。

医療従事者、とりわけ医師は、自院の収益や存続のみに目を向けるのではなく、地域全体でどのような医療を提供するのか、そしてどのように医療を縮小し、つなぎ直していくのかという視点を持つ必要があります。それは容易なことではありませんが、日本の医療を次の世代につなぐためには欠かせない姿勢です。

私は現在も一臨床医として、外来や手術、そして若い医師の教育に没頭しています。そのような中、地方自治体の市長より、公立病院再建の相談をいただきました。数年前のことです。しかし、結果的にはうまくいきませんでした。それぞれの病院には歴史があり、個性があり、働く人の思いがあります。経営再建は教科書のシナリオだけでは解決できないことを痛感しました。

この数年間さまざまな形で医療経営を勉強してきました。多くの書籍を読み、セミナーに出席し、医師たちと語り合いました。その経過は何冊ものノートに、走り書きのメモのように残されています。今回HOSPITECTを立ち上げるにあたり、自分自身の知識を整理する目的も兼ねてブログの執筆を進めています。

このブログは奇抜な主張や独自の理論を展開するものではありません。むしろ、病院を運営する医師や、医療に関わる自治体・行政の方々が、最低限知っておくと判断を誤りにくくなる視点を、できるだけ分かりやすい言葉で整理することを目指しています。

扱う内容は多岐にわたりますが、すべてに共通する問いは一つです。

「この医療を、どうすれば次の世代につなげられるのか」

「現在の医療を継続するために」は、現場を知る医療者が、自ら考え、語り、責任を持って関わることで、医療を「終わらせない」ための知的基盤を築くことが必要と考えています。

内容に関しては、できる限り正確、中立を期したつもりですが、誤っている箇所や偏っている主張がありましたらご指摘いただければ幸いです。

本ブログが、そのための小さな手がかりとなれば幸いです。

参考文献・出典

公的制度・統計(日本)

  • 厚生労働省
    国民皆保険制度の概要
    医療保険制度全般に関する解説資料
  • 厚生労働省
    医療提供体制・地域医療構想に関する資料
    (病床機能、医療計画、地域医療構想、医療資源の見える化)
  • 厚生労働省
    医療施設調査・病院報告
    (病床数、医療機関分布、入院医療の実態)
  • 厚生労働省
    医療費・診療報酬制度に関する公表資料
    (医療費構造、患者負担、診療報酬の仕組み)

国際比較・分析(OECD)

  • OECD
    Health at a Glance(最新版または直近版)
    • 医療費対GDP比
    • 医師数・病床数など医療資源指標
    • 平均寿命・健康アウトカム
    • 医療費の配分構造(外来・入院・薬剤 等)
  • OECD
    医療制度・社会保障に関する国際比較資料
    (人口動態、高齢化、医療財政への影響)

本ブログにおける資料の位置づけについて

本ブログでは、特定の統計数値や図表の転載を目的とせず、
上記の一次資料をもとに、医療経営士・臨床医の視点から構造を整理・再解釈しています。
数値や制度解説の詳細については、各公式資料をご参照ください。