5.高齢化社会で「医療の役割」を再定義する

これまで日本の医療は、「治す医療」を中心に発展してきました。
急性期医療の充実、手術や救命医療の高度化は、多くの命を救い、平均寿命の延伸に大きく貢献してきました。この成果は揺るぎない事実であり、今後も医療の重要な柱であり続けます。

しかし、高齢化が進む現在、医療に求められる役割は、それだけでは語りきれなくなっています。
治療によって病気を克服する人がいる一方で、慢性疾患や複数の疾患を抱えながら生活する人が増え、「完全に治す」ことが現実的でないケースも多くなっています。

ここで必要なのは、「治す医療」を否定することではなく、医療の役割を捉え直すことだと思います。

「治す」だけでは足りない時代

高齢者医療の現場では、治療そのものよりも、その後の生活が問題になる場面が少なくありません。
手術は成功したが、退院後の生活が立ち行かない。
病状は安定しているが、通院や服薬管理が難しい。

こうした状況に対して、従来型の医療モデルは十分に応えきれていませんでした。医療は「病気」を診ることには長けていましたが、「生活」を支える設計にはなっていなかったからです。

「支える医療」という視点

高齢化社会において重要性を増すのが、支える医療です。
これは、症状の改善だけでなく、生活機能の維持、痛みや不安の軽減、尊厳の保持といった要素を含みます。在宅医療、慢性期医療、緩和ケアなどは、その代表例です。

支える医療は、派手な成果が見えにくい分、評価されにくい側面があります。しかし、患者本人や家族にとっては、生活の質を左右する極めて重要な医療です。
医療の成果を「治癒」だけで測る発想そのものを見直す必要があります。

「つなぐ医療」が果たす役割

もう一つ重要なのが、つなぐ医療です。
医療は、単独で完結するものではありません。介護、福祉、地域資源と連携し、患者が切れ目なく支援を受けられるよう調整する役割が、これまで以上に求められています。

急性期病院から回復期、慢性期、在宅へ。
あるいは、医療から介護へ。

この移行を円滑に行うためには、診療そのものよりも、調整や連携が重要になる場面が増えます。ここにこそ、医療の新たな価値があります。

役割の再定義は、医療の縮小ではない

医療の役割を再定義するというと、「医療を減らす」「水準を下げる」と受け取られることがあります。しかし実際には、その逆です。
限られた資源を、より効果的に使うための再設計にほかなりません。

治す医療、支える医療、つなぐ医療。
これらは対立する概念ではなく、患者の状態や地域の実情に応じて重心が移動する連続体です。

医療がその役割を柔軟に変えられるかどうかが、制度の持続性を左右します。

次章では、医療費が実際に「どこで、誰に、どのように使われているのか」を可視化してみます。
数字を通して見ることで、医療の役割転換がなぜ避けられないのかを、より具体的に考えてみましょう。