医療費の議論は、しばしば総額だけで語られます。
「医療費が増え続けている」「財政が厳しい」という表現は頻繁に使われますが、それだけでは問題の所在は見えてきません。重要なのは、医療費が誰に、どこで、どのように使われているのかという配分の視点です。
医療費の大半は「高齢者医療」に使われている
日本の医療費構造を理解するうえで、まず押さえるべき事実があります。
それは、医療費の多くが高齢者、とくに後期高齢者の医療に使われているという点です。
高齢になるほど、慢性疾患や複数疾患を抱える割合は増え、通院回数、投薬、検査、入院の頻度も高くなります。これは個人の問題ではなく、人口構造がもたらす必然的な結果です。
医療費が増えている理由は、「一人当たりの医療が無駄に増えた」からではなく、「医療を多く必要とする人の割合が増えた」ことにあります。
外来・入院・薬剤――どこに比重があるのか
外来医療、入院医療、薬剤、検査、在宅医療など、複数の要素で構成されています。
日本の特徴の一つは、外来受診回数が多いことです。軽症でも受診しやすい制度設計は、早期発見・重症化予防に寄与してきましたが、その分、外来医療費の比重は高くなります。
一方で、入院医療費も依然として大きな割合を占めています。
病床数が多く、入院期間が比較的長かった歴史的背景が影響しています。近年は在院日数の短縮が進んでいますが、急性期病床を中心とした構造は大きくは変わっていません。
さらに見逃せないのが、薬剤費です。高齢者では複数の薬剤を長期間使用するケースが多く、医療費全体に占める割合も増加傾向にあります。
「無駄」ではなく「構造」として捉える
医療費の内訳を見たとき、「外来が多すぎる」「入院が長すぎる」「薬が多い」といった評価が出てきがちです。しかし、これを単純に「無駄」と断じることは適切ではありません。
現在の配分は、制度設計と医療需要の結果として生じている構造です。
フリーアクセス、低負担、病床中心の医療提供体制。これらが組み合わさった結果として、今の医療費配分があります。
問題は、過去に合理的だったこの配分が、これからの医療需要に合っているかどうかです。
配分を変えるとは、役割を変えること
医療費の配分を変えるという議論は、単なるコスト削減ではありません。
それは、医療が何に力を注ぐのか、どの段階で関与するのかという役割の選択に直結します。
たとえば、
重症化する前に関与する医療を厚くするのか。
入院中心から在宅・地域中心へ比重を移すのか。
薬剤に頼る医療から、生活支援や予防を重視するのか。
これらはすべて、医療費の配分をどう設計するかという問いに集約されます。
次章では、「医療崩壊」という言葉が使われるとき、何が実際に起きているのかを整理します。
現場が感じる危機感と、統計に表れる数字のズレを比較しながら、医療のどこが本当に崩れつつあるのかを考えていきます。
