9.“フリーアクセス”は強みか弱みか

日本の医療制度を特徴づける仕組みの一つが、フリーアクセスです。
原則として、紹介状がなくても医療機関を受診でき、患者は自らの判断で医療機関を選ぶことができます。この仕組みは、長年にわたり日本医療の大きな強みとして機能してきました。

フリーアクセスが生み出した価値

フリーアクセスの最大の価値は、受診のハードルを下げたことにあります。
症状が軽いうちから医療にかかれるため、重症化を防ぎやすく、結果として医療費全体の抑制にも寄与してきました。
また、医療機関への信頼感や安心感を社会全体に浸透させた点も見逃せません。

この仕組みは、国民皆保険制度と組み合わさることで初めて機能してきました。
保険証一枚で、どこでも一定水準の医療が受けられる。この体験が、日本社会における医療への信頼の土台を形づくってきたと言えます。

変化した前提条件

しかし、フリーアクセスが設計された当時と、現在とでは前提条件が大きく異なります。
高齢化の進行により、受診回数の多い患者が増え、慢性疾患や複数疾患を抱える人が一般的になりました。
その結果、外来医療の負荷は増大し、医師やスタッフの疲弊が顕在化しています。

また、医療の高度化・専門化が進む中で、「どこにかかっても同じ」という前提も成り立ちにくくなっています。
専門性の高い医療ほど、適切な医療機関への誘導や役割分担が不可欠になります。

フリーアクセスが弱みに転じる瞬間

フリーアクセスが問題となるのは、自由が無制限に運用されるときです。
軽症で高度医療機関を受診するケース、複数の医療機関を同時に受診するケース、夜間・休日の安易な救急利用。これらは、制度の乱用というより、誘導設計が不足している結果かもしれません。

自由な受診が、医療資源の偏在や過剰負荷を生み、結果として本当に必要な患者が医療にアクセスしにくくなってしまいます。

「制限」するのではなく「設計」事態を考え直す

フリーアクセスの課題を「制限すべきかどうか」という二択で議論すると、必ず反発が生じます。
重要なのは、自由を奪うことではなく、適切に機能するよう設計することです。

たとえば、
・かかりつけ医機能の明確化
・紹介・逆紹介の評価
・医療機関の役割の見える化

これらは、フリーアクセスを前提としながら、医療資源を適切に使うための工夫が必要でしょう。

強みを守るとは、形を変えること

フリーアクセスは、日本医療の「守るべき価値」の一つです。
しかし、それを同じ形のまま守ろうとすると、制度全体を弱体化させる可能性があります。

強みを守るとは、価値を固定することではなく、時代に合わせて形を変えることです。
フリーアクセスもまた、調整と再設計を通じてこそ、次の世代に引き継ぐことができる制度と言えるでしょう。

次章では、こうした再設計を進めるうえで欠かせない「医療資源の見える化」に焦点を当てます。
見えないものは、議論も調整もできないからです。