同じ病院の中で、同じように忙しく働いていても、「点数として返ってきやすい仕事」と「必要なのに点数に乗りにくい仕事」があります。現場では昔から感じてきたことですが、最近は物価高騰や賃金上昇が重なり、そうした“歪み”が目立ちやすくなっているように思います。
まず前提として、急性期病院の収支は大づかみに言えば「患者数×単価(患者一人1日当たり報酬)」で収入が決まり、そこから人件費や材料費などの費用が差し引かれる、という構造で整理されています。厚生労働省の資料でも、医療機関の収支構造は(単価×患者数)と(人件費・材料費等)でイメージ図として示されています。 この構造に「点数表」という価格表が乗っている以上、点数が付きやすい行為は収益に結びつきやすく、点数が付きにくい行為は収益に結びつきにくい。ここは制度上、かなり素直な帰結です。
一方で、医療の現場で増えている負担は、必ずしも「点数化可能な負担」ばかりではありません。令和6年度改定の基本方針でも、物価高騰・賃金上昇、経営状況、人材確保の必要性などを踏まえた対応が必要だと述べられています。現場感覚としては、ここ数年「人は増えにくいのに、守るべき基準や対応は増える」という局面が続き、点数で埋めにくいコスト(人件費、エネルギー、委託費など)がじわじわ増加しています。
なぜ「報われる行為/報われにくい行為」が生まれるのでしょうか。私は,診療報酬が“価値”や“原価”を完全に測る仕組みではなく、限られた財源の中で政策的な優先順位を反映して作られる「価格表」だからだと考えます。点数表は万能の原価計算表ではありません。むしろ、政策として伸ばしたい医療には点数や加算がつき、必要性は高いが制度上扱いにくい領域は、どうしても拾い残しが出ます。ここに“歪み”の源泉があります。
現場目線で「報われにくい」と感じやすいのは、例えば“時間がかかるのに手技としては見えにくい仕事”だと思います。多職種調整、退院支援、家族説明、再入院予防のための丁寧な介入、病棟運営の安全管理などは、医療の質を左右しますが、点数に直結しにくい形で発生しがちです。逆に、点数が明確に設定されやすい領域(手技・検査・処置など)は、会計上の見通しが立ちやすい。こうした差が「医療として大切なこと」と「経営として報われやすいこと」のズレとして現れます。
ここからは私見です。全ての医療行為を「正確かつ公正に」反映する完璧な医療制度は存在しません。私はこの“歪み”を善悪で語るより、「制度の性格として起きやすい現象」として受け止める方が建設的だと思います。その上で、病院側ができることは二つあると考えています。第一に、点数表を“価値の序列”と誤解しないこと。点数が低いから重要でない、ではありません。第二に、報われにくい仕事ほど「見える化」して、組織の中で守ることです。診療報酬だけに頼らず、業務設計・人員配置・ICT・標準化で支える領域を明確にしていく。医療の質を守るために、経営はその土台を整える役割がある――私はそう考えています。
次回は、この“歪み”が具体的に「黒字でも苦しい/赤字でも回る」という現象につながる仕組みを、会計とキャッシュのズレ(減価償却、投資、補助金、支払いタイミングなど)として整理します。
