第2章:まとめ

診療報酬は単なる「医療の値段表」ではなく、日本の医療をどの方向へ導き、限られた財源の中で何を優先するかを示す“メッセージ”だと感じるようになってきました。最終的な決定は国にありますが、その前提となる審議を担い、点数という具体的な形に落としていく場が中医協であり、そこでは医学的妥当性だけでなく、財政制約や人材、地域偏在といった現実を踏まえた線引きが避けられません。診療報酬改定は「評価」であると同時に「誘導」でもあり、点数表は政策メッセージの集合体として読む必要があるのだと感じます。

その意図を読み解く入口として役に立つのが「基本方針」です。点数表は結果であり、その前に、国がどこに危機感を持ち、何を支え、何を変えていくのかという“方角”が示されます。基本方針を先に押さえておくと、改定のたびに点数の増減だけを追うのではなく、制度が求める方向性を現場の言葉に翻訳し、診療体制や人材配置を先回りして整える発想につながります。

支払い方式の理解も欠かせません。出来高払いは、現場の多様性に対応しやすい強みを持つ一方で、設計次第で量や複雑化に傾きやすい弱点もあります。急性期入院医療ではDPC/PDPSという枠組みが加わり、包括と出来高の併用、入院日数に沿った設計、医療機関別係数など、制度として“平均化”を成立させる工夫が積み重なっています。

一方で、制度の設計と病院経営の現実の間には、どうしても“歪み”が生まれます。診療報酬は原価表ではなく価格表であり、報われやすい行為と報われにくい行為の差が出やすい。加えて、損益(会計)とキャッシュ(資金繰り)は一致しないため、黒字でも苦しく、赤字でも当面回ってしまう局面があり得ます。点数だけを見て「黒字/赤字」を語ると、現場の危機感と数字が噛み合わなくなることがあるのは、この構造によるものだと思います。

臨床医として現実的に必要なのは、点数表を暗記することではなく、制度がどう動いているかをつかむための“最小セット”です。診療報酬が価格表であること、支払いの型(出来高とDPC)、施設基準・算定要件、そして入金の時間差。この程度を押さえるだけでも、制度に振り回される感覚はかなり減り、現場の改善を制度の言葉で説明しやすくなります。

さらに医療財政を立体的に見るには、財源構造と薬価を避けて通れません。医療費は保険料・公費・自己負担の三本柱で支えられ、自己負担は年齢や所得で設計されています。そして医療費を動かすレバーは診療報酬だけでなく、薬価という強い装置も並走しています。点数表だけを見ていると、医療費の動きや政策の意図が平面的に見えてしまうのは、そのためです。 政策と現場のギャップは「どちらかが間違っている」というより、制度が平均で設計され、現場が個別に向き合うという視点の違いから生まれるのだと思います。政策文書を“方角”として読み、その方角が自院・自地域でどこでズレるのかを言語化し、先に備える。その姿勢が、次の章で扱う「地域医療」にそのままつながります。同じ制度の下でも地域の条件で景色が大きく変わるからこそ、制度の読み方を携えて、地域という現実の中で何が起きているのかを一緒に整理していきたいと思います。